機関紙『東京YWCA』
東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。
機関紙『東京YWCA』 No.813(2025年5月号)
「社会を理想に近づける努力~憲法を活かそう」
伊藤千尋(国際ジャーナリスト)
ウクライナやパレスチナの戦火は止まず、戦後になっても憎しみの連鎖が続きます。世界の争乱を止める手立てはないのでしょうか。それは私たちの目の前にあります。憲法9条こそ憎しみの連鎖を断つカギです。
私はこの50年で世界84の国を取材しました。どこでも聞いたのが「こんどは日本がアメリカに原爆を落とす番だ」という言葉です。やられたらやり返せ。それが今も世界の常識だから戦争が絶えないのです。「とんでもない。日本人は報復でなく、原爆をなくそうと考える」と答えると、驚かれます。
では、なぜ日本人は世界とは違う発想をするのでしょうか。それは9条がそれなりに根づいているからです。歴代の政権から攻撃されても、世論調査では多数が支持します。その9条が日本に平和の風土を作ったのならば、他の国も9条を持てばその分、世界は着実に平和に近づくでしょう。
ところが日本政府の方針は真逆です。9条の中身を替え、南西諸島のミサイル基地化、自衛隊の軍備強化と米軍への従属を進め、日本を再び戦争に引き込む構えです。
これに対して9条を積極的に広めようと今、全国に展開している市民運動が9条の碑の建設です。9条を身近に目に見える形にして、あらためて市民の認識を深めようとするのです。私が3年前に著書『非戦の誓い』で紹介した碑は23でしたが、昨年1年間だけで14生まれ、この5月3日だけで6つ誕生します。今や合計で59です。普通の記念碑は過去を忘れないために建てますが、この碑は現在の状況を変え未来を照らすのです。
四角い石だけではない。東京の碑はステンレス製の球体で、「9条だから球状」というユーモアです。茨城県では航空自衛隊基地の中にできました。千葉県の女性が考えた碑は鐘付きの鳴り物入りです。みなさん楽しみながら平和の創造を目指します。ノーベル平和賞を受賞した被団協に加盟する長崎原爆被災者協議会は、被爆80周年の記念事業で今年、9条の碑を建てます。
アメリカの押し付けと言われた9条ですが戦後の首相、幣原喜重郎の発案であることが明らかになりました。「軍縮を可能にする方法は一つ。世界がいっせいに一切の軍備を廃止することである。ここまで考えを進めてきた時に、第九条というものが思い浮かんだ。今こそ平和のために起つときではないか。僕は天命をさずかったような気がした」という彼の言葉が政府の憲法調査会の資料に残っています。
マッカーサーも「日本の幣原首相がやってきて『この問題を解決する道はただ一つ、戦争をなくすことだ。私は、現在起草している憲法の中にこのような規定を入れたい』と言った」と米国の議会で証言しています。日本の政治家が考え出した先進的なアイデアです。誇りを持って世界に広めましょう。
憲法でもう一つ優れた条文は両性の平等を定めた24条です。ウクライナ出身の女性でGHQスタッフだったベアテ・シロタさんの発案でした。時代遅れな日本政府の憲法草案に対してGHQがモデル案を作ったさい、彼女が提案したのです。芸大のピアノ教師に着任した父に連れられて来日したのは少女時代。そこで見た男尊女卑の社会を変えたいと考えたのでした。
残念ながら今の日本は9条も24条も活かしていません。理想は掲げただけでは実現しない。社会を理想に近づける努力が必要です。平和憲法で軍隊を無くしたコスタリカは、法を整備して国会の議席も男女平等にしました。時代を逆戻りさせる政治を変え、世界に稀な憲法を活かすことが今の私たちに求められている。それを改めて自覚する憲法記念日にしたいものです。
バックナンバー
2025年4月号 イースターメッセージ 復活の命の光.pdf(南 望)
2025年3月号 国際女性デーにあたって 現代の『隣人』ー日本に暮らす外国籍の女性支援の中から.pdf(新倉久乃)
2025年1月号 年頭にあたって 平和をつくりだす人々とともに.pdf(坂口和子)
2024年12月号 クリスマスメッセージ「飼い葉桶に生まれたイエスさま」.pdf(福永保昭)
2024年11月号 聖書に親しむ.pdf(左近豊)
2024年10月号 呉市で海上自衛隊「巨大で多機能な複合防衛拠点設置」案急浮上.pdf(永冨彌古)
2024年8月号 「平和の礎」に刻まれた名前の叫び.pdf(島しづ子)
2024年7月号 <人間としての羞恥>に向き合うことを求めてきたパレスチナと反憲法的行為.pdf(清末愛砂)
2024年6月号 戦雲に覆われる日本列島.pdf(三上智恵)
2024年5月号 憲法記念日に思う.pdf(齊藤小百合)
2024年4月号 イースターメッセージ「二人は走る」.pdf(松本敏之)
2024年3月号 パレスチナ問題から考える「人間の姿」と「日本の立ち位置」.pdf (桃井和馬)
2024年1月号 年頭にあたって 『核』否定の思想に立つ.pdf(坂口和子)
2023年12月号 クリスマスメッセージ 悲しみのさらに向こう.pdf(友野富美子)
2023年11月号 クリスマスと音楽.pdf(竹内智子)
2023年10月号 今はもう「茶色の朝」になっている.pdf(渡辺一枝)
2023年8月号 ウクライナ避難者から教えられたこと.pdf(横山由利亜)
2023年7月号 原発の本当の怖さ.pdf(小倉志郎)
2023年6月号 YWCAは魅力的なところ.pdf(遠藤久江)
2023年5月号 憲法記念日に思う 真の性売買禁止法の制定を.pdf(角田由紀子)
2023年4月号 イースターメッセージ イエスの平和(その2).pdf(廣石望)
2023年3月号 座談会 ユースに聞く、性と生殖に関する自己決定とYWCA.pdf
2023年1月号 「全力ハイブリッド」で次のステージへ「対話の灯を」点火しましょう!.pdf(山本知恵)
2022年12月号 クリスマスメッセージ 世界の隅で起こったこと.pdf(マリア・グレイス笹森田鶴)
2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)
2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)
2022年8月号 被爆77年。過去を見つめ、未来を考える―広島YWCAのいま.pdf (中澤晶子)
2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)
2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)
2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf
2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)
2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)
2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)
2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)
2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)
2021年8月号 足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)
2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)
2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)
2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)
2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)
2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)
2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)
2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)
2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)
2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)
2020年8月号 原爆投下75周年の広島に身を置いて.pdf(湊晶子)
2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)
2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)
2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)
2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)
2020年1月号 世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)
2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)
2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)
2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)
2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)
2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)
2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)
2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)
2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)
2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)
2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)
2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf
2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)
2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)
2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)
2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)
2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)
2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)
2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)
2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)
2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)
2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)
2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)
2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)
2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)
2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)
2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)