機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.761(2020年8月号)


原爆投下75周年の広島に身を置いて
    

                          湊 晶子(広島女学院院長・学長)

 広島・長崎に原子爆弾が投下されて75周年を迎えるこの年に、緑豊かに復興した広島の地で、孫のような学生たちに私の戦争体験を語ることができるとは私自身の人生設計の中には組まれていませんでした。2014年に81歳で広島女学院院長・学長に就任以来、毎年核廃絶の署名活動を松井一實広島市長、原爆記念館の方々、広島女学院高等学校の生徒たちと共に行ってきましたが、今年は新型コロナによりすべての行事を縮小した形でしか行うことはできません。
 2018年11月23日には広島女学院の卒業生であるサーロー節子さんをお招きし、広島女学院大学の講堂で1000人の出席者を得て核廃絶の講演会を開催いたしました。サーロー節子さんと私は同年齢で、お互いに爆撃から守られた命を「核廃絶と世界平和」のために捧げようと再確認いたしました。
 戦時中神戸に住んで居りました私ども家族は、クリスチャン家族であったため迫害の対象となり闘いの日々を送りました。小学6年生だった私は教室の正面に飾られた二重橋の写真に遥拝することも、その横に安置された神棚への柏手もしなかったことから、教室の後ろに立たされました。私の右腰がノートでしたので、今でもそこをなでると神武天皇から今上天皇までの名前とモールス信号などがすらすらと出てきます。医者であった父が出征してからは、留守家族は都会から地方への疎開を余儀なくされ、千葉に移ったことにより教室に立たされることから解放されました。軍事工場化された千葉県立第一高等女学校で毎日朝早くから戦闘機のビス打ちをしました。原爆が投下された日の東京と千葉は、空からはカラスの集団のような小型戦闘機による機銃掃射でバタバタと撃ち殺され、海からは艦砲射撃による攻撃を受け町は壊滅的に破壊されました。私は屋根すれすれまで急降下しながら狙い撃ちしてきた操縦士と目が合ったのです。彼の目に涙が。その時「国と国は殺し合っていても、人と人は必ず仲良くなれるはず」という思いが込み上げてきました。(ガラテヤの信徒への手紙3章28節)
 広島と長崎に原子爆弾が投下され一瞬にして多くの尊い命が奪われました。戦争も末期状態の中で、私たち女学生に「従軍看護婦志願書」が渡されたのです。私は傷ついた兵隊さんのために応募するつもりで自宅に持ち帰りましたが、父親役を務めていたクリスチャンの祖母に書類を破られました。「神様からいただいた命を今大切にする時です!」と。止めどなく涙が流れましたが、いつ死ぬかわからない日々の中でも毎朝4時に起きて聖書を読んで祈っていた祖母の一言には力強い説得力がありました。数日後戦争は終わったのです。
 5代目のクリスチャンである私は、東京女子大学を卒業後、1956年フルブライト奨学生として敵国だったアメリカに留学し、ホイートン大学大学院、ハーバード大学神学部で「ローマ帝国におけるキリスト者と国家」について研究を深めました(湊晶子著『初代教会と現代』ヨベル社)。パウロとペテロの「キリスト者は国家に従うべきである」との言葉は、「国家に対する無条件服従」を意味しているのではなく、「国家が神に属するものまでも強要してきた時には、キリスト者は毅然として対決すべきである」という命令であることを確認し、私の小学校時代の対応が間違っていなかったことに納得致しました。
 平和とは、「平和に生きる、平和を望む」という消極的なものではなく、積極的に犠牲を覚悟しつつ「つくり出す・実現する」(マタイによる福音書5章9節)ものであることを心に刻み、平和の実現のために残された生涯を生き抜きたいと、原爆の地広島で決意を新たにしています。


 

 




バックナンバー

2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)

2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)

2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

2017年3月号 東日本大震災から6年、東京YWCAの被災者支援の取り組みについて.pdf (池上三喜子)

2017年1月号 新しいタイプの指導者を迎える世界.pdf (ランデス・ハル)

2016年12月号 クリスマス、プレゼントは希望.pdf (上田亜樹子)

2016年11月号 障害があることと、パラスポーツの関係.pdf (橋本和秀)

2016年10月号 遠のく平和を、あきらめずに追い求めよう.pdf (石井摩耶子)

2016年8月号 「平和」の問題以前に「民主主義」を考える.pdf (上村英明)

2016年6月号 教育現場から18歳選挙権を考える.pdf (加藤英明)

2016年5月号 憲法記念日に思う.pdf (武井由起子)

2016年4月号 イースターメッセージ 甦るという奇跡を信じること.pdf (岩村太郎)

2016年2月号 となりびと 若い米兵との出逢い.pdf (砂川真紀)

2016年1月号 年頭にあたって 平和の種をまく.pdf (藤原聖帆)

2015年12月号 クリスマスメッセージ インマヌエルー神はだれと共におられるのか?.pdf (瀬戸英治)

2015年11月号 安全保障関連法の後に.pdf (川戸れい子)

2015年8月号 善悪を見分ける力.pdf (松本敏之)

2015年6月号 選挙が終わって 何が残った?.pdf (川戸れい子)

2015年5月号 「憲法9条」という希望をつなぐ.pdf (斉藤小百合)

2015年4月号 イースターメッセージ  平和があるように.pdf (神﨑雄二)

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