機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.823(2026年4月号)

イースターメッセージ
壁は崩され、蓋は砕かれるのだから

                  吉髙 叶
                   (日本バプテスト連盟市川八幡キリスト教会牧師、
                    NCC日本キリスト教協議会議長)

 

ささやかながらも、心から平和を祈りながら歩んでいる私たちの前に「壁」が立ちはだかることがあります。小さいながらも、いのちの叫びに耳を傾け、その声に応えて交わりをつくっていこうとしている私たちの上に「蓋」がのしかかる時があります。心が折れそうになり、気づいたらため息ばかりをついている時があります。私は、今まさに、そのような気持ちに沈んでいます。世界的大国が他国の体制転換を謀り、実際にミサイル攻撃によってその国の主だった人々を殺戮してしまいました。無差別に放たれたそれらのミサイルは、女学校にも襲いかかり、たくさんの子どもたちが犠牲となりました。つくりものの映画などではない、こんな残虐で非人間的なことが、いま、ほんとうに起こっています。しかも、もう何年もの間、私たちはこうした悪魔的な現実に向き合わさせられ、「なぜ終わらせられないのだろう、なぜ止められないのだろう」「いったいこの世界はどうなってしまうのだろう」と、半ば絶望的な気持ちになってしまうのです。
 キリスト教会の暦では、いま「受難節」を過ごしています。神の想いを身に受けたイエスという人が、嫌われ、捨てられ、殺されていく道のりを見つめながら、いま、このときもイエスはこの世界で殺されていくのだなぁ、と感じるのです。けれど、もう一つの声、「人間の謀(はか)らいの力や、暴力で相手を支配する力は、最終場面とはならないのだよ」というイースターのささやきに、「ほんとうにそれを信じたいです」とすがるような思いで、私は今年の受難節を過ごしています。
 人々を縛り付けていた剣や槍の暴力、宗教観念や制度、律法主義の支配(「罪人」のレッテルを貼られる恐怖)の縛りから人々を解き放とうと、宗教的な境界線を飛び越えて、出会った人の尊厳の回復を宣言して歩んだイエスでしたが、結局は十字架にかけられ殺されてしまいました。その「結局」をもって、イエスに従ってきた人々の歩みの物語は終止符を打つと思われました。でも、そうなりませんでした。むしろそこから「主イエスはよみがえられた」「あの方が示した『いのちの道』は決して終わらないのだ」という信仰が生まれていきました。復活のイエスと出会った人々と、その証言を自分の中に重ねて経験した人々が、通来の「結局」の局面を、新たな出発の場面に転換させて踏み出していくことから、新しい人たちの新しい生き方が始まっていったのでした。イースターはそのような事件です。
 主イエスの生涯を伝えるどの「福音書」も、イエス復活の場面について証言していることがあります。「イエスの遺体を納めていた墓の蓋(大きな石)は脇に転がされていて、中にはもうイエスの姿はなかった」ということです。墓はイエスを閉じ込めておく場所ではなかったというのです。イエスという人は、神の祝福を一人ひとりに注ぐ人でした。互いの尊厳を保ち合う交わりに招く人でした。痛みと悲しみに寄り添い共感を通して癒す人でした。「神の国は、低められ侮られているこの人のものだ」と宣言する人でした。そんなイエスの信実・イエスのいのちそのものを、墓の中に閉じ込めておくことはできなかったのです。
 冒頭に書きましたが、いま私たちの世界・私たちの交わりに、あまりにも頑強な壁が立ちはだかり、重く巨大な蓋がのしかかっていて、人間の歴史、人間の真実、人間の理性、人間の希望を閉ざし、人間を絶望させてしまうような力が猛威を振るっています。しかし、私たちにのしかかる岩、交わりを引き裂こうとする壁、希望を塞ごうとする蓋、それらがどれほど大きく強く重くても、必ず砕かれ転がされる。「それを信じて勇気をもって生きよ」と言うのです。闇にいのちを閉じ込めようとしても穴は開き、真実に蓋をしようとしてもきっと脇に転がされる。いのちには、蓋はできない! 暗闇の洞穴に光の入り口が開く! それが、復活(イースター)が私たちに呼びかけてくれていることです。暗闇を懸命に生きようとする人々に、神が届けてくれている呼び声です。
 だから、落ち込みながらも、喘ぎながらも、それでも諦めずに「平和を祈りながら生きよう」と、「暴虐に苦しむ人々の求めを、みんなの求めにしよう」と、そして「人間の尊厳を認め合う交わりづくりに取り組もう」と、顔を上げて、明日も歩み続けたいのです。

               

 

バックナンバー

2026年3月号 「夜明け前」なのか? ―エネルギー政策の逆走.pdf(横山由美子)

2026年1 月号 年頭にあたって 120周年を越えて、その先へ.pdf(尾﨑裕美子)

2025年12月号 クリスマスメッセージ 彼女の代わりにイエスを抱く.pdf(渡邊さゆり)

2025年11月号 被爆80年から核廃絶へ-「核兵器をなくす日本キャンペーン」の挑戦.pdf(浅野英男)

2025年10月号 小さな願いを受け止めて社会につなげる―東京YWCAのきょうだい児支援のこれまでとこれから―.pdf(五十嵐菜々子)

2025年8月号 戦争の時代に女性の権利を考える.pdf(清水奈名子)

2025年7月号  若い女性へのメッセージ「隣人と共にいきるという生き方」.pdf(公文和子)

2025年6月号 基地のそばで暮らすということ.pdf(平和と正義委員会 チーム月桃の会)

2025年5月号 「社会を理想に近づける努力~憲法を活かそう」.pdf(伊藤千尋)

2025年4月号 イースターメッセージ 復活の命の光.pdf(南 望)

2025年3月号 国際女性デーにあたって 現代の『隣人』ー日本に暮らす外国籍の女性支援の中から.pdf(新倉久乃)

2025年1月号 年頭にあたって 平和をつくりだす人々とともに.pdf(坂口和子)

2024年12月号 クリスマスメッセージ「飼い葉桶に生まれたイエスさま」.pdf(福永保昭)

2024年11月号 聖書に親しむ.pdf(左近豊)

2024年10月号 呉市で海上自衛隊「巨大で多機能な複合防衛拠点設置」案急浮上.pdf(永冨彌古)

2024年8月号 「平和の礎」に刻まれた名前の叫び.pdf(島しづ子)

2024年7月号 <人間としての羞恥>に向き合うことを求めてきたパレスチナと反憲法的行為.pdf(清末愛砂)

2024年6月号 戦雲に覆われる日本列島.pdf(三上智恵)

2024年5月号 憲法記念日に思う.pdf(齊藤小百合)

2024年4月号 イースターメッセージ「二人は走る」.pdf(松本敏之)

2024年3月号 パレスチナ問題から考える「人間の姿」と「日本の立ち位置」.pdf (桃井和馬)

2024年1月号 年頭にあたって 『核』否定の思想に立つ.pdf(坂口和子)

2023年12月号 クリスマスメッセージ 悲しみのさらに向こう.pdf(友野富美子)

2023年11月号 クリスマスと音楽.pdf(竹内智子)

2023年10月号 今はもう「茶色の朝」になっている.pdf(渡辺一枝)

2023年8月号 ウクライナ避難者から教えられたこと.pdf(横山由利亜)

2023年7月号 原発の本当の怖さ.pdf(小倉志郎)

2023年6月号 YWCAは魅力的なところ.pdf(遠藤久江)

2023年5月号 憲法記念日に思う 真の性売買禁止法の制定を.pdf(角田由紀子)

2023年4月号 イースターメッセージ イエスの平和(その2).pdf(廣石望)

2023年3月号 座談会 ユースに聞く、性と生殖に関する自己決定とYWCA.pdf

2023年1月号 「全力ハイブリッド」で次のステージへ「対話の灯を」点火しましょう!.pdf(山本知恵)

2022年12月号 クリスマスメッセージ 世界の隅で起こったこと.pdf(マリア・グレイス笹森田鶴)

2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)

2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)

2022年8月号 被爆77年。過去を見つめ、未来を考える―広島YWCAのいま.pdf     (中澤晶子)

2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)

2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)

2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf

2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)

2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)

2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)

2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)

2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)

2021年10月号 聖書が語る希望.pdf

2021年8月号  足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)

2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)

2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)

2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)

2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)

2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)

2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)

2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)

2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)

2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)

2020年8月号 原爆投下75周年の広島に身を置いて.pdf(湊晶子)

2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)

2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)

2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

 

 

ページトップにもどる