機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.820(2026年1月号)

年頭にあたって
 120周年を越えて、その先へ

                

尾﨑裕美子(東京YWCA代表理事)

 

『日本YWCA100年史』を読んでいると、どこからか「大丈夫ですよ」という声が聞こえたような気がしました。空耳でしょうか。
 新しい年を迎えました。昨年は東京YWCA創立120周年そして、敗戦、広島・長崎の被爆から80年の節目の年でした。YWCAの歴史を振り返ってみると、世界YWCAの先駆けとなった英国YWCAが発足した1885年はクリミア戦争、1905年の日本のYWCA創設の頃は日露戦争、敗戦後の混乱・復興期を経て、120周年の中間地点である60周年に当たる1965年はベトナム戦争と、その時々の社会的背景には常に戦争の影があったことがわかります。そして2025年、ウクライナとロシア、パレスチナとイスラエル、ミャンマーでは今も戦闘が続いており、多くの命が奪われています。まるで過去、現在、未来が暴力の鎖でつながれているような気がしませんか。
 イギリスの歴史学者E.H.カーは、「歴史とは、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話である。」と言っていますが、歴史をどうとらえるかは、まさに今のあり方、未来への向き合い方が問われることなのでしょう。 私たちは、歴史から何を学ぶべきかと思わずにはいられません。
 『日本YWCA100年史』の編纂に関わられた渡辺峯さんは「編集で一番大事にしたのは、戦中からのYWCAの責任のところです。ここを真正面から見つめないといけない。」と言っておられました。YWCAは、先の戦争の中、活動が丸ごと戦時体制にからめとられ、侵略戦争に抵抗することなく、キリスト教団体としての本質を歪めていきました。団体の存続のために妥協した部分も見られます。こうして結果として戦争に協力してしまったのです。当時の人たちの置かれた状況と苦悩を思う時、時代が異なるとはいえ、同じようなことが起きた時に私たちはどこに立つのか、どう行動するのか、まさに現在が問われている、と感じます。
 YWCAは、その反省に立って、二度と戦争を起こさせないために平和憲法を守り、平和を求めて働く女性団体として戦後の歩みを始めました。1970年からは、「『核』否定の思想に立つ」を掲げ、自他ともに平和団体であることを標榜し、行動してきました。平和を、いのちが大切にされ、すべての人が安らかにその人らしく生きることができる状態と捉えた時に、東京YWCAの様々な活動・事業はどれもが平和を実現する道につながるとの確信をもって。
 さて、YWCAは、ボランティアである会員が主体的に会の運営に関わっているボランティア団体ですが、ボランティア活動を支える精神的な理念としてボランタリズムがあります。そのボランタリズムの概念は大きく分けて二つあると言います。(阿部志郎 1980
 一つは、「voluntarism」これは、自発性・自主性・自由意思を表します。通常は、この意味でイメージされることが多いのではないでしょうか。それに対して、もう一つは、「voluntaryism」 これには、国家権力との関係における独立性、市民運動性、独立した民間の立場といった意味があります。この考え方は、教会が国家から自由であることに由来しているそうです。日本ではこのyの付くボランタリズムが弱いと言われています。
 言い換えれば、「voluntarism」は主権者である私たち一人ひとりが自発性、自主性をもって自分の頭で考え、行動すること。そして「voluntaryism」は組織として国家や行政権から自立した自由な立場で、それと協働し、場合によっては、国家権力を恐れずに批判し、抵抗していくこと、提言していくこと―「おかしいと思うことにはNOを言っていくこと」です。この二つがあってこそ、真のボランタリズムであることを心に留めておきたいと思います。これはまさに、YWCAの立脚点でもあります。
 100周年に続いての、特にこの10年は、コロナ禍を経て、これまでの常識が通用しない、予測不能なことが重なった年月でした。世界規模で不安が渦巻き、つながりあった問題が見えにくくされている今、私たちはさらに大きな課題に直面しています。2024年の日本被団協のノーベル平和賞受賞に力を得て、「核なき世界」への願いと行動が世代を超えた広がりをみせている一方で、国内では原発再稼働が進み、憲法改悪への手続きが具体化されようとしています。これらの動きを注視すると共に、私たちの抵抗のボランタリズムを大いに発揮しなければなりません。
 これまで、いくつもの転換点を祈りつつ決断して乗り越えてきたYWCAの先輩たちのことを思います。あの時聞こえた「大丈夫ですよ」の声は、先輩たちからのエールだったのかもしれません。
 歴史という宝に学びつつ、ともに進んでゆきましょう。120年目のその先へ。

 

バックナンバー

2025年12月号 クリスマスメッセージ 彼女の代わりにイエスを抱く.pdf(渡邊さゆり)

2025年11月号 被爆80年から核廃絶へ-「核兵器をなくす日本キャンペーン」の挑戦.pdf(浅野英男)

2025年10月号 小さな願いを受け止めて社会につなげる―東京YWCAのきょうだい児支援のこれまでとこれから―.pdf(五十嵐菜々子)

2025年8月号 戦争の時代に女性の権利を考える.pdf(清水奈名子)

2025年7月号  若い女性へのメッセージ「隣人と共にいきるという生き方」.pdf(公文和子)

2025年6月号 基地のそばで暮らすということ.pdf(平和と正義委員会 チーム月桃の会)

2025年5月号 「社会を理想に近づける努力~憲法を活かそう」.pdf(伊藤千尋)

2025年4月号 イースターメッセージ 復活の命の光.pdf(南 望)

2025年3月号 国際女性デーにあたって 現代の『隣人』ー日本に暮らす外国籍の女性支援の中から.pdf(新倉久乃)

2025年1月号 年頭にあたって 平和をつくりだす人々とともに.pdf(坂口和子)

2024年12月号 クリスマスメッセージ「飼い葉桶に生まれたイエスさま」.pdf(福永保昭)

2024年11月号 聖書に親しむ.pdf(左近豊)

2024年10月号 呉市で海上自衛隊「巨大で多機能な複合防衛拠点設置」案急浮上.pdf(永冨彌古)

2024年8月号 「平和の礎」に刻まれた名前の叫び.pdf(島しづ子)

2024年7月号 <人間としての羞恥>に向き合うことを求めてきたパレスチナと反憲法的行為.pdf(清末愛砂)

2024年6月号 戦雲に覆われる日本列島.pdf(三上智恵)

2024年5月号 憲法記念日に思う.pdf(齊藤小百合)

2024年4月号 イースターメッセージ「二人は走る」.pdf(松本敏之)

2024年3月号 パレスチナ問題から考える「人間の姿」と「日本の立ち位置」.pdf (桃井和馬)

2024年1月号 年頭にあたって 『核』否定の思想に立つ.pdf(坂口和子)

2023年12月号 クリスマスメッセージ 悲しみのさらに向こう.pdf(友野富美子)

2023年11月号 クリスマスと音楽.pdf(竹内智子)

2023年10月号 今はもう「茶色の朝」になっている.pdf(渡辺一枝)

2023年8月号 ウクライナ避難者から教えられたこと.pdf(横山由利亜)

2023年7月号 原発の本当の怖さ.pdf(小倉志郎)

2023年6月号 YWCAは魅力的なところ.pdf(遠藤久江)

2023年5月号 憲法記念日に思う 真の性売買禁止法の制定を.pdf(角田由紀子)

2023年4月号 イースターメッセージ イエスの平和(その2).pdf(廣石望)

2023年3月号 座談会 ユースに聞く、性と生殖に関する自己決定とYWCA.pdf

2023年1月号 「全力ハイブリッド」で次のステージへ「対話の灯を」点火しましょう!.pdf(山本知恵)

2022年12月号 クリスマスメッセージ 世界の隅で起こったこと.pdf(マリア・グレイス笹森田鶴)

2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)

2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)

2022年8月号 被爆77年。過去を見つめ、未来を考える―広島YWCAのいま.pdf     (中澤晶子)

2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)

2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)

2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf

2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)

2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)

2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)

2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)

2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)

2021年10月号 聖書が語る希望.pdf

2021年8月号  足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)

2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)

2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)

2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)

2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)

2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)

2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)

2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)

2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)

2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)

2020年8月号 原爆投下75周年の広島に身を置いて.pdf(湊晶子)

2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)

2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)

2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

 

 

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