機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.786(2022年12月号)

クリスマスメッセージ
 世界の隅で起こったこと
              

               マリア・グレイス笹森 田鶴(日本聖公会北海道教区主教)

 さて、その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。すると、主の天使が現れ、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。天使は言った。「恐れるな。わたしは、すべての民に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町に、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。
                          (ルカによる福音書2章8~11節)

 教会では、クリスマスのあいさつに「クリスマスおめでとう」と言い合います。けれどもイエスが生まれた頃そこで起こっていたことは、決して社会的には手放しにおめでたいことや当然の喜びという出来事だけではない、不思議な出来事の連続でした。
 母親となったマリアは恐らく13歳から15歳ぐらい。結婚する予定のヨセフに身に覚えのない妊娠が発覚。世間に知られたら石打の刑です。それでも産む決意をして何とか穏やかに過ごしていたところ、住民登録のために突然家を出て、ヨセフの出身地に一緒に旅をしなければならなくなります。その旅先で産気づいたマリアは宿屋にも泊まれず、急遽見ず知らずの家の中の、家畜がいただろう、騒々しく落ち着かない場所で出産を迎えたのでした。当時の若い女性にとって、我が人生が自分の思い通りになるなどとは到底考えられない時代ではあるものの、それ以上に想像を越える、自分にとってはあまり好ましくない出来事が次々と降りかかります。どんなにか不安と怯えの日々を過ごしていただろうかと思います。マリアは、今、息をして、目の前のことに対処しているだけで精一杯です。
 そこに訪れてきたのは羊飼いたちでした。彼らは仕事上、真っ暗闇の中で野宿をしていると、神の使いが突然現れ、あまりの輝き明るい様子に驚き恐れます。それでもようやく事態を飲み込み、イエスの誕生を知り、見ず知らずの赤ん坊に会いに、夜も明けない時刻に出かけていきます。当時羊飼いという職業は、人々から蔑まれていた、貧しさと厳しさの象徴のような職業でした。彼らは、自分たちが急に押しかけては嫌がられるのではないかと、恐る恐る救い主のいる所に近づきます。そして彼らは若い家族に迎え入れられ、小さな姿の救い主に会うことができたのです。人生でこれほど輝き、幸せな気分になれたことは今までありません。どんなにうれしかったことでしょう。
 クリスマスの物語は、世界の隅で起こっている、世間では見過ごされがちな、むしろ差別されている人々という登場人物たちの積み重ねの出来事のように綴られています。この登場人物はすべて、貧しく、家も定まっておらず、先の見えない状況の中で日々生きていくことでようやく過ごしている人々です。そのような人々の間にイエスが誕生したのです。このことの意味は、神は、高みにあって人間世界を見下ろしているお方なのでは決してなく、人間の一番つらく、悲しく、厳しい現実の只中にともに生きようとされるお方であるということを示しています。
 神は、このどうしようもないわたしたちの世界、分裂と不和、不正義と諦め、無理解と差別の現実が満ちている世界にわざわざ身を置き、絶望や不安、恐れやおののき、悲しみや痛みを覚えてようやく生きている人々のためにあろうとしてくださっているというメッセージです。
 教会はそのことを祝います。そして互いにあいさつします。「クリスマス、おめでとう。神はこのような世界に痛み、悲しんでいるあなたを救うために来てくださいました。心の固くなってしまっている、生きることがつらいと思っているあなたと、ともにいるために来てくださいました。そして世界を変えてくださろうとしています。わたしたちもその出来事の起こっている場所に呼ばれています。」

 

               



バックナンバー

2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)

2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)

2022年8月号 被爆77年。過去を見つめ、未来を考える―広島YWCAのいま.pdf     (中澤晶子)

2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)

2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)

2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf

2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)

2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)

2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)

2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)

2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)

2021年10月号 聖書が語る希望.pdf

2021年8月号  足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)

2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)

2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)

2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)

2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)

2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)

2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)

2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)

2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)

2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)

2020年8月号 原爆投下75周年の広島に身を置いて.pdf(湊晶子)

2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)

2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)

2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

 

 

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