機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.803(2024年6月号)

 戦雲に覆われる日本列島
 ~要塞化されているのは南西諸島だけではない~      

                       三上智恵(ジャーナリスト・映画監督)

 

 私の5作目のドキュメンタリー映画「戦雲(いくさふむ)」は、3月から全国52の映画館で公開が始まり、一部でまだ上映中だ。ここまで短期間で全国に拡がったのは初めてだ。舞台挨拶で20都市の劇場を訪ねたが、見終わった観客は異口同音にこう言う。
「全く知らなかった!」「まさかこんなことになっていたとは」。
 この8年、凄まじい勢いで進んでいった南西諸島の軍事要塞化。この映画に描かれる、ミサイル拠点にされていく島々の悲しみを国民は知らない。だがこれは南西諸島だけの問題ではない。国土を戦場にする想定で進む国防計画であるにもかかわらず、国民は恐ろしいほどそのことに気付いていない。
 確かに、報道は機能不全を起こしている。しかし総理大臣経験者が「台湾有事は日本有事」とったり、外国で「闘う覚悟」を呼びかけたり、防衛三文書では敵基地攻撃力を保持し世界第3位の軍事国家を目指すと内外に宣言したことを知らないはずはない。
 そして軍事同盟色を強めるのは日米間だけではない。Quad(日米豪印戦略対話)、AUKUS(米英豪の安全保障枠組み)と多国間で中国包囲網を形成していく中、日本列島がますます「西側諸国の利益の最前線」という役割を担わされ、対中国戦略の要衝と位置付けられていることになぜ国民は危機感を持たないのか。ここを戦場にしますよ、という勢いで軍事化される島々は沖縄戦の再来かと危機を叫んできたが、なぜその声は届かないのか?それは「軍事衝突があっても尖閣とか南の島々だろう」「まさか本土までは及ばないだろう」と、大多数の人が無意識に思い込んでいるからではないだろうか。
 それは「南のほうの問題」と思わされているのではと、疑ってみた方がいいかもしれない。国は国防に関してはまず国民をすものだからだ。例えば、与那国島には当初自衛隊の「沿岸監視隊」が来るだけでミサイル基地ではない、米軍も来ないと説明されていた。だが、一昨年戦車が島を走り、米軍も演習に来るようになり、PAC3(地対空誘導弾パトリオットミサイル)が常駐し、電子戦部隊も加わり、ついにミサイル基地も新設することになった。
 さらに、有事の一歩手前の「武力攻撃予測事態」と政府が認定したら即日1700人の島民全員が船と飛行機で島外に避難しなければならなくなった。
 集合は公民館。荷物は一人リュック一つまで。行先は九州各県。島外避難の説明会で、町内旅行のような行程表を見せられた牧畜業の男性は言った。
「島には戻れますか?国は牛や牧場の補償をしてくれますか?大体、自衛隊が来たほうが安心だと誘致したのになぜ私たちの島が真っ先に脱出しなければならない島になっているんですか」
 家畜も畑も捨てて、父祖の地から追われて出ていくなんて、どんなに悲しく憤懣やるかたないか。そんな地域があることが報道されず、映画館で知るしかないなんて、まさに異常事態だ。
 いま日本列島全体が「継戦能力」を高めるために「国土抗堪化」「強靭化計画」の中にある。先日、16の特定利用空港・港湾が選ばれた。戦闘機や軍艦の使用に耐えられるよう、民間の空港や港湾を強化し、有事の際は軍事優先で使う。そして継続して長期間の戦闘に耐えられるよう弾薬量を増やさねばならず、京都祝園弾薬庫、広島・呉の自衛隊新施設、大分敷戸弾薬庫など全国各地で要塞化は進んでいる。
 これら本土の軍事拠点は真っ先に攻撃対象になる。民間の空港や港湾ならばジュネーブ諸条約で攻撃不可だが、今後軍民共用になれば話は違う。中国との覇権争いを優位に進めたいアメリカのために戦場にされるなどまっぴらだ、と抵抗しているのが沖縄県民だけでは、この流れは止められない。傍観する余裕は国民の誰にもないはずだ。

                       

                      

 

 

バックナンバー

2024年5月号 憲法記念日に思う.pdf(齊藤小百合)

2024年4月号 イースターメッセージ「二人は走る」.pdf(松本敏之)

2024年3月号 パレスチナ問題から考える「人間の姿」と「日本の立ち位置」.pdf (桃井和馬)

2024年1月号 年頭にあたって 『核』否定の思想に立つ.pdf(坂口和子)

2023年12月号 クリスマスメッセージ 悲しみのさらに向こう.pdf(友野富美子)

2023年11月号 クリスマスと音楽.pdf(竹内智子)

2023年10月号 今はもう「茶色の朝」になっている.pdf(渡辺一枝)

2023年8月号 ウクライナ避難者から教えられたこと.pdf(横山由利亜)

2023年7月号 原発の本当の怖さ.pdf(小倉志郎)

2023年6月号 YWCAは魅力的なところ.pdf(遠藤久江)

2023年5月号 憲法記念日に思う 真の性売買禁止法の制定を.pdf(角田由紀子)

2023年4月号 イースターメッセージ イエスの平和(その2).pdf(廣石望)

2023年3月号 座談会 ユースに聞く、性と生殖に関する自己決定とYWCA.pdf

2023年1月号 「全力ハイブリッド」で次のステージへ「対話の灯を」点火しましょう!.pdf(山本知恵)

2022年12月号 クリスマスメッセージ 世界の隅で起こったこと.pdf(マリア・グレイス笹森田鶴)

2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)

2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)

2022年8月号 被爆77年。過去を見つめ、未来を考える―広島YWCAのいま.pdf     (中澤晶子)

2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)

2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)

2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf

2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)

2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)

2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)

2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)

2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)

2021年10月号 聖書が語る希望.pdf

2021年8月号  足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)

2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)

2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)

2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)

2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)

2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)

2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)

2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)

2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)

2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)

2020年8月号 原爆投下75周年の広島に身を置いて.pdf(湊晶子)

2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)

2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)

2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

 

 

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