機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.805(2024年8月号)

「平和の礎」に刻まれた名前の叫び 

       島しづ子(日本基督教団うふざと伝道所牧師・新基地建設反対抗議船船長)

  私は20204月から沖縄県の南部にある「うふざと伝道所」に赴任しました。それまでは名古屋市に45年住んでいました。以前から辺野古新基地建設に反対して沖縄に来ていましたが、在住5年目の今も沖縄の歴史を知らなかったことを実感しています。沖縄には多くの名所があります。何回でも訪れたい場所は平和祈念公園です。平和祈念公園は「沖縄戦終焉の地」糸満市摩文仁の丘陵を南に望み、南東側に険しく美しい海岸線を眺望できる台地にあります。公園内には「平和祈念資料館」「平和の礎」「平和祈念像」、摩文仁の丘の上には国立沖縄戦没者墓苑や府県、団体の慰霊塔があります。
 公園内にある「平和の礎」には、沖縄戦で亡くなった方々242,225名(2024531日時)のお名前が国、県や町村別に敵味方区別なく刻銘されています。沖縄の歴史と風土の中で培われた「平和のこころ」を広く内外にのべ伝え、世界の恒久平和を願い、国籍や軍人、民間人の区別なく、沖縄戦などで亡くなられた方々の(まだ確認されていない方々もいますが)氏名を刻んでいます。「平和の礎」は太平洋戦争・沖縄戦終結50周年を記念して1995623日に建設されました。当時の知事は大田昌秀知事でした。
 沖縄戦での県の死者は149,634名(20246月時)です。沖縄戦で一番死者が多かったのは那覇市の29,553名。続いて糸満市11,695名。南城市は8,301名。八重瀬町7,452名です(以上20236月時)。沖縄島南部の死者が多いのは、南部が激戦地だったからです。
 2年前から「平和の礎」名前の読み上げが始まりました。61日から23日までオンライン(Zoom)によって行われるので、世界中から参加できました。私は南城市大里に住んでいますので大里の刻銘された方々の名前を読み上げました。頂いた名簿を見て胸が痛みました。住んでいる町に多くの犠牲者がいたこと。家族と思われる数人が同じ日に同じ場所で亡くなっていること。お名前が無く「〇〇〇の孫」「▽▽▽の二男」と刻銘された人がいること。亡くなった年齢が70歳から0歳まで幅広いこと。先にお母さんが亡くなり、残された幼児がその数日後に亡くなっていることなど。名簿から死者の人生が立ち上がって来ました。沖縄戦で沖縄では四人に一人が亡くなったと言われます。けれど三人に一人、二人に一人が亡くなった地域もあり、一家全滅の家もありました。お名前の持ち主が「戦争さえなければ、もっと生きたかった」と語っています。
 昨年の6月には時間がある限り、刻銘者読み上げをZoomで見ていました。61日午後95分。30代のお母さんが小学生のお子さん二人と読み上げに参加していました。お母さんが言いました。「私の父は沖縄戦の時、赤ちゃんでした。おばあちゃんは父を抱いたまま亡くなったそうです。おばあちゃんが命をつないでくれたおかげで私たちがいます。その名前を読ませていただきます。『タマキ・マカト 29歳』」
 マカトさんは19406月、爆撃を避けて壕に赤ちゃんを抱いて逃げたのでしょう。壕の中まで米軍の攻撃があり、乳飲み子をかばいました。その赤ちゃんが大人になり、結婚し、娘が生まれ、その子どもたち二人が、会ったことのない曾祖母マカトさんの名前を読み上げました。ただ一人残された乳飲み子にとって戦後は厳しいものだったに違いありません。数字では想像できなかったことを、お名前を読み上げることで知ることができました。「平和の礎」のお名前が「生きたかったよ」と叫んでいます。沖縄の友は言います。「沖縄は戦争につながるものをすべて拒否する!」と。私もこの声を聞いた者として新基地建設抗議船に乗り、戦争反対を訴えています。

                       

                      

 

 

バックナンバー

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2023年10月号 今はもう「茶色の朝」になっている.pdf(渡辺一枝)

2023年8月号 ウクライナ避難者から教えられたこと.pdf(横山由利亜)

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2023年6月号 YWCAは魅力的なところ.pdf(遠藤久江)

2023年5月号 憲法記念日に思う 真の性売買禁止法の制定を.pdf(角田由紀子)

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2022年12月号 クリスマスメッセージ 世界の隅で起こったこと.pdf(マリア・グレイス笹森田鶴)

2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)

2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)

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2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)

2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)

2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf

2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)

2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)

2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)

2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)

2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)

2021年10月号 聖書が語る希望.pdf

2021年8月号  足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)

2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)

2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)

2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)

2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)

2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)

2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)

2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)

2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)

2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)

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2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

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2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

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2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

 

 

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