機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.751(2019年8月号)


昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日
  ―その行く先は?― 
    

鈴木 伶子(会員、日本YWCA元総幹事)

 1945年10月に初めて小学校に入った私が手にした教科書は、「ネズミの嫁入り」の話を残して、すべて墨塗りされていました。翌年の教科書は、新聞紙のような物を自分で折ってとじる粗末な物でしたが、平和と民主主義の一色でした。一年で戦争から平和へと塗り替えられた教科書を手に、戦争も平和も、これほどたやすく変えられるものかと戸惑いました。
 いま、日本は平和だ、と思っている人が大勢いますが、実は巨大な軍事国家になっています。日本国憲法には、前文や第9条で、戦争をしない、武力は持たないと決めていますが、歴代の政権はこれを骨抜きにしてきました。5年前には集団的自衛権という名で、自衛隊が米軍と協力して世界規模で働けるようにしました。国内でも、沖縄の人々の総意を無視して辺野古新基地建設が進められ、宮古島は島全体が要塞化され、山口と秋田では地上配備型迎撃システムが配備されようとしています。護衛艦を航空母艦に改装し、最新鋭のステルス戦闘機を搭載するそうです。自衛のためという名目で、実際には攻撃できる国になっているのです。その反面、社会福祉は遅れ、食事にも事欠き、学校に行かれない子どもがいたり、ホームレスや無職の人も大勢います。これは決して平和な社会ではありません。
 50年ほど前、「どうして戦争になるまで反対しなかったの?」という私の質問に対し、YWCAの先輩関屋綾子さんは「昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日、というように、少しずつ変わっていくと、気がつかないうちに巻き込まれてしまうのよ」と教えてくださいました。
 最近、米国のトランプ大統領が日米安全保障条約は、米国が日本を守るのに対し、米国が攻撃されても日本は米国を守らず、不公平だと言い出しました。この安保条約は、1960年に市民や学生が大反対をし、国会を取り巻いた人々が新橋あたりまで、ぎっしり詰めかけていました。反対の趣旨は、日本国内に米軍の駐留基地を提供することで、米軍と結びついて世界の紛争に巻き込まれていくことが平和憲法を覆すと当時の人たちは、恐れたのです。少しずつ慣らされていった結果、今や米国大統領は米国を守るために自衛隊が世界に展開することを期待すると公言するまでになりました。
 後世の人たちは、2019年の私たちを見て、どうしてあれほど戦争に巻き込まれる恐れが明確にあったのに、何も反対しなかったのかと、不思議に思うかもしれません。今の子どもたちが戦争の悲劇を味わう恐れがあります。日本の子どもだけではありません。日本が戦争をすれば、被害を受けるのは再びアジア・太平洋の人々です。
 60年安保で興奮していた私に、韓国の学生が、自分の父は日本植民地下で捕まえられ拷問されて瀕死状態になった、と告げました。100年前に水道橋の朝鮮YMCAで日本植民地支配に抵抗して立ち上がった朝鮮人学生たちは、故国に帰り、国を挙げての抵抗運動に入っていきました。その抵抗の精神は、その後の独裁政権を倒し、ローソク革命の成功へと続きました。抵抗し続ける精神が民主主義を生んでいるのです。
 日本の私たちも、時代に流されていくのではなく、嫌なものは嫌とはっきり拒否していくことが必要です。すでに、秘密保護法、共謀罪法など、私たちが抵抗することを困難にする体制ができていて、平和を求めて立ち上がることも困難かもしれません。でも、今声を上げ、平和を求めて立ち上がらないでどうするのでしょうか。
 憲法前文の「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう」に見張り、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」する精神を持ち続けるよう努力しましょう。

 




バックナンバー

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

2017年3月号 東日本大震災から6年、東京YWCAの被災者支援の取り組みについて.pdf (池上三喜子)

2017年1月号 新しいタイプの指導者を迎える世界.pdf (ランデス・ハル)

2016年12月号 クリスマス、プレゼントは希望.pdf (上田亜樹子)

2016年11月号 障害があることと、パラスポーツの関係.pdf (橋本和秀)

2016年10月号 遠のく平和を、あきらめずに追い求めよう.pdf (石井摩耶子)

2016年8月号 「平和」の問題以前に「民主主義」を考える.pdf (上村英明)

2016年6月号 教育現場から18歳選挙権を考える.pdf (加藤英明)

2016年5月号 憲法記念日に思う.pdf (武井由起子)

2016年4月号 イースターメッセージ 甦るという奇跡を信じること.pdf (岩村太郎)

2016年2月号 となりびと 若い米兵との出逢い.pdf (砂川真紀)

2016年1月号 年頭にあたって 平和の種をまく.pdf (藤原聖帆)

2015年12月号 クリスマスメッセージ インマヌエルー神はだれと共におられるのか?.pdf (瀬戸英治)

2015年11月号 安全保障関連法の後に.pdf (川戸れい子)

2015年8月号 善悪を見分ける力.pdf (松本敏之)

2015年6月号 選挙が終わって 何が残った?.pdf (川戸れい子)

2015年5月号 「憲法9条」という希望をつなぐ.pdf (斉藤小百合)

2015年4月号 イースターメッセージ  平和があるように.pdf (神﨑雄二)

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