機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.798(2024年1月号)

 年頭にあたって
  『核』否定の思想に立つ        

                         坂口 和子(東京YWCA代表理事)

 

 日本YWCAが1970年の全国総会で運動の強調点とした「『核』否定の思想に立つ」の意味の深さと重みを改めて思う二つの国連の会議の報道があった。
 一つは、11月末から国連で開かれた核兵器禁止条約の第2回締約国会議である。かつてないほど核戦争の脅威が増していることから、会議では「現在と未来の世代のために、核なき世界の実現に向けたゆまぬ努力を続ける」と表明している。なにかにつけて唯一の被爆国という日本政府はこの条約を批准しないばかりか、今回アメリカの核の傘のもとにあるNATO加盟国のドイツやベルギーなどがオブザーバーとして参加している中、その検討さえもしなかった。
 加えて、12月上旬に開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)に向けて、日本政府は他の21カ国とともに「温暖化ガスの排出減のために2050年までに世界の原発の設備容量を3倍に増やす」宣言に、福島で原発事故を経験し、今も避難を余儀なくされている人々を顧みることなく加わっている。
 この政府の姿勢に、「『核』否定の思想に立つ」運動を続けてきたYWCAの一員として、まだまだ道は遠いとがっかりした。そんな折、先に述べた核兵器禁止条約締約国会議を傍聴し、現地の高等学校などで対話を行った大学生の「現地ではさまざまな発信で核の問題を普遍化しようという取り組みが多くみられた。軍縮の分野で活躍できる若者の存在が必要だと改めて感じた」という言葉に、気持ちを新たにして、1970年に「『核』否定の思想に立つ」を強調点としたときのこと、その後50年にわたり、この課題に熱心に取り組んだ方々のお顔を思いうかべながら、日本YWCA80年史を読み返した。
 原発の危険性について日本のYWCAが意見表明したのは全国総会での決議からさかのぼって、1963年に開かれた世界総会のパネルディスカッションであった。当時原子力の平和利用は安全という風潮の中、原発の危険性を発表原稿に加えるため一晩で書き直して、安全性に疑義を出す発言をしたところ各国YWCA間で大変な議論を呼び、意見が分かれた、とパネリストとなった会員の関屋綾子さんからも聞いている。
 核兵器の廃絶と原発に代表される核エネルギーの利用が人々の生活と健康に与える危険性を世に訴え、核時代に生きる人間としてとるべき姿勢とその決意をあらわす「『核』否定の思想に立つ」の思いは、後に起きたスリーマイル、チェルノブイリ、そして福島の原発事故に直面し、改めてその深い洞察と先見性に頭が下がる。
 核兵器の非人道性を辛抱強く訴えるひろしま・ながさきの被爆者に応えて行動を起こしたICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)に代表されるNGOの運動は、国連加盟の多くの国々を動かして核兵器禁止条約を成立させる原動力となったように、世界の多くの人々が今、核の存在が人類を脅かしている現実を直視し、核のない世界を目指して動き出している。
 逆行する政府の姿をみながら、率先して核廃絶・脱原発を国際社会に訴える役割を担う国を目指して、さらに心を強くして取り組むことが、今また求められているとの思いを強くしている。東京YWCAも基本方針の一つに核兵器のない世界、原発のない社会を目指すことを掲げている。この取り組みの道は長く、険しい。無力感に陥ることもたびたびあるかもしれない。しかし、この50年間、地道に取り組んできた運動の種は私たちの手の中に豊かにある。この運動の種をもって、あらゆる垣根を越え、知恵を集めて進む若い世代の参加を呼びかけたい。その意味で、世界YWCAを中心に各国のYWCAが取り組んでいる若い女性の変革をもたらすリーダーシップのためのグローバル・ライズアップに期待をする。また、今進めている組織の見直しもその一助になるのではないかと思っている。

 

 

バックナンバー

2023年12月号 クリスマスメッセージ 悲しみのさらに向こう.pdf(友野富美子)

2023年11月号 クリスマスと音楽.pdf(竹内智子)

2023年10月号 今はもう「茶色の朝」になっている.pdf(渡辺一枝)

2023年8月号 ウクライナ避難者から教えられたこと.pdf(横山由利亜)

2023年7月号 原発の本当の怖さ.pdf(小倉志郎)

2023年6月号 YWCAは魅力的なところ.pdf(遠藤久江)

2023年5月号 憲法記念日に思う 真の性売買禁止法の制定を.pdf(角田由紀子)

2023年4月号 イースターメッセージ イエスの平和(その2).pdf(廣石望)

2023年3月号 座談会 ユースに聞く、性と生殖に関する自己決定とYWCA.pdf

2023年1月号 「全力ハイブリッド」で次のステージへ「対話の灯を」点火しましょう!.pdf(山本知恵)

2022年12月号 クリスマスメッセージ 世界の隅で起こったこと.pdf(マリア・グレイス笹森田鶴)

2022年11月号 性と生殖に関する健康と権利.pdf(雀部真理)

2022年10月号 イエスの平和.pdf(廣石望)

2022年8月号 被爆77年。過去を見つめ、未来を考える―広島YWCAのいま.pdf     (中澤晶子)

2022年7月号 平和の種をまく.pdf (内山佳子)

2022年6月号 「お花畑」を笑う者は「焼け野原」をもたらす.pdf(中野晃一)

2022年5月号 第38回憲法カフェ 岸田政権と自民党憲法改正案.pdf

2022年4月号 イースターメッセージ「えっ、こわい」 .pdf(有住航)

2022年3月号 国際女性デーにあたって 国連女性の地位委員会(CSW)とYWCAのかかわり.pdf (根本博子)

2022年1月号 年頭にあたって 平和の器とならせてください.pdf(栗林(坂口)和子)

2021年12月号 クリスマスメッセージ 夜明けは近い.pdf (井口 真)

2021年11月号 キリスト教教育が大切にしているもの.pdf (西原廉太)

2021年10月号 聖書が語る希望.pdf

2021年8月号  足元から平和をつくる.pdf (樋口さやか)

2021年7月号 コロナ禍に生きる女性と子ども.pdf (大日向雅美)

2021年6月号 平和創造~野尻湖から辺野古へ~.pdf (金井創)

2021年5月号 憲法記念日に思う 私にとってのキリスト教基盤.pdf (幕谷安紀子)

2021年4月号 イースターメッセージ 敗者の復活.pdf (堤 隆)

2021年3月号 「留学生の母親」運動 現在・過去・未来.pdf(八星恵子)

2021年1月号 年頭にあたって それでも心を高く.pdf (川戸れい子)

2020年12月号 クリスマスメッセージ マリアの歌.pdf(柳下明子)

2020年11月号 コロナ禍でDVを引き起こしているものとは.pdf(丹羽麻子)

2020年10月号 拡大ひととき礼拝 平和を実現する人々は、幸いである.pdf(ランデスハル)

2020年8月号 原爆投下75周年の広島に身を置いて.pdf(湊晶子)

2020年7月号 地球温暖化と私たち.pdf (山内恭)

2020年6月号 憲法記念日に思う 個の尊厳を奪われた存在が象徴であるということ.pdf (齊藤小百合)

2020年4月号 イースターメッセージ 倒れても大丈夫.pdf (吉岡康子)

2020年3月号 生かされている喜び―問題だらけの社会で―.pdf(太田尚子)

2020年1月号  世界に仲間たちと共に目指す、2035ビジョン.pdf(藤谷佐斗子)

2019年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光.pdf(東彩子)

2019年11月号 韓国で「わたし」と向き合いながら.pdf(長尾有起)

2019年10月号 「日米同盟」とは何か.pdf (川戸れい子)

2019年8月号 昨日に変わらぬ今日、今日に変わらぬ明日.pdf (鈴木伶子)

2019年7月号 権力者から私たちの時間を取り戻そう.pdf (石井摩耶子)

2019年6月号 「命(ぬち)どぅ宝」―わたしは命である―.pdf (神谷武宏)

2019年5月号 憲法記念日に思う 「憲法を議論せよ」.pdf (島昭宏)

2019年4月号 イースターメッセージ 慰めと希望のイースター.pdf (高橋貞二郎)

2019年3月号 講演会「世界の核被害」.pdf

2019年1月号 年頭にあたって 寛容でありたい.pdf (川戸れい子)

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

2018年8月号 そこに「痛み/悼み」はあるか.pdf (金迅野)

2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

2017年11月号 「共に生きる」ということ.pdf (田中公明)

2017年10月号 知っていますか? 外国人労働者の問題.pdf (鈴木伶子)

2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

2017年6月号 米軍基地と沖縄.pdf (糸洲のぶ子)

2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

 

 

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