機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.744(2019年1月号)


年頭にあたって
 寛容でありたい

川戸れい子(代表理事)

 ドイツのメルケル首相が、州議会選挙での敗北により、キリスト教民主同盟(CDU)の党首を退き、引き続き首相の任にはあたるものの、今期をもって政界から引退することになった。既に数年前から、ヨーロッパ諸国におけるポピュリスト政党、右翼政党の躍進を心配していたドイツの友人たちは、さぞかし憂えていることだろう。
 今回の州議会選挙の敗北、メルケル氏の積極的な難民受け入れ政策に対する批判が一因であることは否めない。CDUは元々保守政党であり、その党首であったメルケル首相が、多数の難民を受け容れ、他のEU諸国にも応分の受け容れを求める政策を推進してきたのは、不思議でもある。
 メルケル氏は人道の観点から難民に手を差し伸べようとしてきたのだろうが、保守政党党首でありながらそうしたのは、彼女が旧東独の出身であることと無関係ではないだろう。旧東独市民は人権無視の厳しい監視社会を生き抜き、旧西独との再統合後も、半世紀にわたり異なる体制下にあったというギャップが残り、被差別感に苦しんできた。メルケル氏は首相の地位にまで昇り詰めても、他者の痛みのわかる人なのに違いない。自分と異なる要素を持つ人々を受け容れる。彼女は寛容なのである。
〔不寛容の時代に〕
 「不寛容の時代」ということが言われ始めてから、随分経ったように思うが、世界の不寛容度はその後もますます高まっている。トランプ政権はその最たるものだが、ヨーロッパ各国でも相次いで排外主義的な右翼系政党、ポピュリスト政党が議席を伸ばしている。
 自国第一主義とは、他国および他国人は二の次、ということである。自国の「国益」に沿わなければ、貧困に喘ぎ、何とか他国で糊口をしのごうとする移民も、生命の危険から逃れようとする難民も排除の対象でしかない。だが、それが本当の「国益」になるのだろうか。
 ドイツはかつて強烈な自国第一主義を採った。言うまでもない。ナチ政権である。「アーリア民族の生存圏確保」の名の下にユダヤ人を迫害・虐殺し、ロマの人々もユダヤ人同様に扱い、スラヴ系民族も劣等民族として強制労働に駆り出し、ドイツ人を居住させるために財産を奪い、追放した。その結果が第二次世界大戦の悲劇である。大戦後、ドイツ人はナチ時代の反省に立って、「ヨーロッパのドイツ」であろうとし、ヨーロッパ統合を推進してきたのではなかったか。そのドイツが再び不寛容に陥っていくのだろうか。
〔外国人労働力導入〕
 一方、安倍政権は労働力不足を補うため、出入国管理法の改正に乗り出した。これは一見、排外主義の逆を行っているようだが、その実は外国人を同じ人間として見ず、安価な労働力としか考えない自国第一主義そのものだ。
 かつて南米から日系人を労働者として受け入れたものの、景気が悪くなった途端に、雇用していた企業は彼らを解雇し、社員寮から追い出して路頭に迷わせた。それを政府は見過ごしにした。外国人「研修生」という名目で受け入れた人々は、劣悪な待遇に耐えかねて逃亡、不法滞在者化した。今も「技能実習生」という名称に変わったが、同じことが起きている。
 東京YWCAは常に他国の人々に寛容であろうとしてきた。日本に来て困難を抱えている人々に手を差し伸べてきた。私たちの拠って立つところは、「主は他国から来ている人を守り、身寄りのない子供とやもめを支え、悪人の企てを砕かれる」(詩篇146:9)である。旧約聖書にさえ、神の寛容が述べられている。私たちは寛容でありたい。また、寛容であれ、と主張し続けたい。




バックナンバー

2018年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスを迎えるために.pdf (瀬口哲夫)

2018年11月号 講演会「BC級戦犯を知っていますか?」.pdf

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2018年7月号 対決ではなくて、対話こそが平和を作る.pdf (楊志輝)

2018年6月号 沖縄と憲法.pdf (金井創)

2018年5月号 憲法記念日に思う ー改憲的護憲路運について.pdf (高木一彦)

2018年4月号 復活?.pdf (秋葉晴彦)

2018年3月号 国際女性デーを記念して.pdf (藤原聖帆、山口慧子対談)

2018年1月号 年頭にあたって この道を、ためらわず.pdf (実生律子)

2017年12月号 クリスマスメッセージ クリスマスの光と闇.pdf (鈴木育三)

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2017年8月号 戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です.pdf (暉峻淑子)

2017年7月号 天皇の「おことば」は天皇制に生かされるか.pdf (吉馴明子)

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2017年5月号 憲法記念日に思う バーニー・サンダースの選挙運動に学ぶ.pdf (宇都宮健児)

2017年4月号 イースターメッセージ からだのよみがえり.pdf (大久保正禎)

2017年3月号 東日本大震災から6年、東京YWCAの被災者支援の取り組みについて.pdf (池上三喜子)

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2016年12月号 クリスマス、プレゼントは希望.pdf (上田亜樹子)

2016年11月号 障害があることと、パラスポーツの関係.pdf (橋本和秀)

2016年10月号 遠のく平和を、あきらめずに追い求めよう.pdf (石井摩耶子)

2016年8月号 「平和」の問題以前に「民主主義」を考える.pdf (上村英明)

2016年6月号 教育現場から18歳選挙権を考える.pdf (加藤英明)

2016年5月号 憲法記念日に思う.pdf (武井由起子)

2016年4月号 イースターメッセージ 甦るという奇跡を信じること.pdf (岩村太郎)

2016年2月号 となりびと 若い米兵との出逢い.pdf (砂川真紀)

2016年1月号 年頭にあたって 平和の種をまく.pdf (藤原聖帆)

2015年12月号 クリスマスメッセージ インマヌエルー神はだれと共におられるのか?.pdf (瀬戸英治)

2015年11月号 安全保障関連法の後に.pdf (川戸れい子)

2015年8月号 善悪を見分ける力.pdf (松本敏之)

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2015年4月号 イースターメッセージ  平和があるように.pdf (神﨑雄二)

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