機関紙『東京YWCA』

東京YWCAでは、会員向けに、年11回機関紙を発行しています。
ここでは、内容の一部をご紹介します。

機関紙『東京YWCA』 No.728(2017年7月号)

天皇の「おことば」は 天皇制に生かされるか

吉馴明子(恵泉女学園大学名誉教授)

 天皇の生前退位の意向表明がなされてから、急に「天皇」への関心が高まった。退位の時期や具体的な道のりは、特別立法で対処するなどと決まったようだが、「おことば」から始まった「象徴天皇」のお務めは何かという問いは続いている。
 憲法では、天皇の職務として「国事行為」を挙げているが、これは国会の開会、総理大臣の任命などを指しており、私たちの記憶に新しい被災地訪問などは、含まれない。東日本大震災では、天皇、皇后共に膝をついて被災者と話を交わし、幼子を気づかい、震災前の日常が戻るといいですねとおだやかに人々を励まされた。国民と共にあり、同じ目線で言葉を交わすことを、象徴の務めとされる天皇の姿である。他方、サイパン、フィリピン、パラオを訪問し、日米双方の慰霊碑に拝礼し、苦難を受けた現地の人々をねぎらい、戦争犠牲者を追悼した。国内的にも、沖縄、広島、長崎を慰問している。
 このような今上天皇の姿は昭和天皇とは非常に異なっている。何といっても今上天皇は戦争の直接指揮官ではない。それかあらぬか「戦争責任というような文章の綾には不案内」といった昭和天皇とは異なり、戦死者・被爆者を追悼し、「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なこと」と発言した。戦争の記憶、そして敗戦後の荒廃した日々の記憶が薄れていく中で、「戦争に学ぶ」とする発言は極めて重要な意味を持つ。また、パラオでは日米双方の慰霊碑をめぐり、すべての戦没者の鎮魂を祈られた。
 敗戦後出された「人間宣言」において昭和天皇は、天皇と国民との間の「紐帯」が、戦前の「神話と伝説」から「信頼と敬愛」に変えられたと述べた。天皇の「神話」性が取り除かれたことで、天皇は「人間」となったと理解された。しかし、マッカーサー三原則の、天皇を「国家のトップに置く」を「象徴天皇」として生かしたため、依然として天皇を特別な方として、国民が「従う」ことを期待しているのではないかとの疑念が残った。今上天皇のあり方はこの疑念を払拭する努力であった。
 ところが、この疑念が「退位」表明反対で再燃した。「天皇は御存在自体が尊いというお役目」を持つはず、ある人は、日本は「天照大神の子孫の神々様から、神武天皇の即位で、神話が国になった」国であるから、「国民のために祭祀を執り行う」のが、天皇の最重要任務であるのにと反対した。しかし、戦前の13の皇室祭祀のうち、11が明治時代に作られた事を考えれば、上のような主張が、日本を「神聖国家」として特別優れた者とする、排他的なナショナリズムであり、宗教的不寛容を生むこともあきらかであろう。
 4月に石井摩耶子さんと共同編集で出版した『現人神から大衆天皇制へ―昭和の国体とキリスト教』(刀水書房)も併せて読んでいただきたい。

バックナンバー

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2017年3月号 東日本大震災から6年、東京YWCAの被災者支援の取り組みについて.pdf (池上三喜子)

2017年1月号 新しいタイプの指導者を迎える世界.pdf (ランデス・ハル)

2016年12月号 クリスマス、プレゼントは希望.pdf (上田亜樹子)

2016年11月号 障害があることと、パラスポーツの関係.pdf (橋本和秀)

2016年10月号 遠のく平和を、あきらめずに追い求めよう.pdf (石井摩耶子)

2016年8月号 「平和」の問題以前に「民主主義」を考える.pdf (上村英明)

2016年6月号 教育現場から18歳選挙権を考える.pdf (加藤英明)

2016年5月号 憲法記念日に思う.pdf (武井由起子)

2016年4月号 イースターメッセージ 甦るという奇跡を信じること.pdf (岩村太郎)

2016年2月号 となりびと 若い米兵との出逢い.pdf (砂川真紀)

2016年1月号 年頭にあたって 平和の種をまく.pdf (藤原聖帆)

2015年12月号 クリスマスメッセージ インマヌエルー神はだれと共におられるのか?.pdf (瀬戸英治)

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2015年6月号 選挙が終わって 何が残った?.pdf (川戸れい子)

2015年5月号 「憲法9条」という希望をつなぐ.pdf (斉藤小百合)

2015年4月号 イースターメッセージ  平和があるように.pdf (神﨑雄二)

2015年2月号 平和憲法のために.pdf(新聞委員会)

2015年1月号 年頭にあたって 「喜びをもって集う場に」.pdf (俣野尚子)

2014年12月号 クリスマスメッセージ イエスこそ私たちの希望.pdf (ランデスハル)

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