DVサバイバーと協働するための支援者トレーニング

◆ 支援者トレーニング開発者からのメッセージ

ドメスティックバイオレンス(DV)は、複雑で、時には大変な危険をも伴う経験です。その渦中にあるサバイバーを支援するには、多様な知識とスキル、また必要な情報や資源を入手する手腕が要求されます。元々支援を始める人は、情熱と、困難な状況にある人を助けたいという優しい思いをもって活動し始めるのですが、それだけでは壁にぶつかるのが常です。それは、どの国でも同じです。

東京YWCAが主催する「DVサバイバーと協働するための支援者トレーニング」の元になるトレーニングは、2001年、アメリカの中西部にあるオハイオ州で開発されました。大学を卒業し、社会福祉やカウンセリングなどの資格を持つ支援者が増えてきたものの、サバイバーの視点からDVを理解できていない人が多いことが、DVシェルターなど支援団体の代表者や長年支援活動をしてきた人たちの懸念でした。そこで、支援団体の研修や技術支援を任されているオハイオ州のDV連合(※1)で、サバイバー支援をするために必要な、基本となることをきっちり詰め込んだトレーニングを作ることになったのです。私もDV連合のトレーニング・チームの一員として、開発・実践に関わりました。日本にこのトレーニングを導入したのは2005年。その後、様々な改善を繰り返し、2014年から日本で活動する支援者がトレーナーとなり、定期的に提供できるようになりました。

このトレーニングの特徴は、DVの基本がしっかり学べることです。特に、支援の方向を決めるのはサバイバー本人の思いや計画であるべき、というサバイバー主導の支援は、このトレーニングの中心となるコンセプトですサバイバー主導の支援をするために欠かせない支援者としての姿勢、社会的抑圧とDVとの関係、サバイバーが経験するバリア、危機介入、支援者倫理など多くのトピックについて統一して学べるよう、2日間のトレーニングの流れを工夫しました。また、知識、スキルや自己効力感をより一層伸ばすため、成人学習理論(※2)を用いて講義、小グループの話し合いから多種のワークを駆使しています。

アメリカでは研修のことをトレーニングということが一般的ですが、日本ではスポーツ以外ではあまり聞きなれません。しかし、トレーニングという言葉を意図的に残したのは、いわゆる「筋トレ」のように鍛える機会であることを強調したいからです。しんどいところをもう一歩押して踏ん張ることでさらに鍛えられるスポーツ選手たちのように、支援者がサバイバーとパートナーシップを築いて協働できるようになるために大きく成長するチャンス、それが、「DVサバイバーと協働するための支援者トレーニング」です。

同じ志を持った支援者のネットワークに参加できることもこのトレーニングの魅力だと思います。東京YWCAのトレーナーやスタッフ、またトレーナーのスーパーバイザーである私も、ネットワークの一部です。トレーニング、フォローアップや交流会を通して、共に学び、支え合うネットワークに是非、加わってください。  

尾崎礼子

1709_Reiko_Ozaki_03.JPGのサムネイル画像プロフィール: 社会福祉学博士、北ケンタッキー大学(アメリカ)社会福祉学部、助教授。オハイオ州ソーシャルワーカー(スーパーバイザー)免許保持。移民・難民コミュニティでの草の根の活動からメンタルヘルスのカウンセリング、DV被害者サポートや加害者対策、暴力予防プログラム実施と調査まで、アメリカでの多様な経験は20年以上に渡る。近年は、東京YWCA主催の支援者トレーニングの効果測定を含めた様々な調査研究に携わっている。

注釈
※1 アメリカ各州に存在する非営利団体で、州内のDVシェルターなど支援団体のサポートをすることを目的に連邦政府の資金を受け、主に1980年代に設立され現在に至る。
※2 個人が直面している問題解決を目的にしたり、それぞれの学びのスタイルや人生経験を考慮するなど、いわゆる「学校」での学びと違った、成人が効果的に学ぶために役立つ教授法を提唱する理論。

◆ 講座の概要

「DVサバイバーと協働するための支援者トレーニング」は、DVサバイバー支援において大切なことをしっかりと学び、DVサバイバーの視点に立った支援ができるようになることを目的とした支援者向け研修です。 レクチャーや体験ワークを通じて、DVやサバイバーの理解を深め、その理解を基盤とした心構えやスキルを学びます。様々なケースに対応する日々の支援の中で、支援者の拠りどころとなる内容となっています。米国オハイオ州DV連合のプログラムをベースに、東京YWCAトレーナーチームが、日本の状況に合わせてプログラムを更新しています。   
「フォローアップ」は、トレーニングの3か月後に行われます。トレーニングの内容や日頃の支援の振り返り、および仲間との学び合いによって、学びを自分の支援に落とし込んでいきます。

図1.pngDV被害者支援には、様々な知識やスキルが求められます。多様なケースに対応していくために、「DVサバイバーと協働するための支援者トレーニング」と「フォローアップ」では、支援の基盤をしっかりと固めます。それを拠り所として、様々な専門知識を積み上げていっていただきたいと考えています。

◇ 「DVサバイバーと協働するための支援者トレーニング」

時間数:2日間(14時間)
定員:24名
DSCN1891.JPGプログラム内容:

  1. 1日目「DV、サバイバーを理解する」(社会問題としてのDV、社会的抑圧、DVのからくり、サバイバー心理など)
  2. 2日目「支援に必要なスキルを学ぶ」(サバイバー中心の支援、支援倫理、サバイバーの安全確保、必要な技法、セルフケアなど)

テキスト:『DV被害者支援ハンドブック~サバイバーとともに』(尾崎礼子著、朱鷺書房)2,000円(税別)

* 2日間14時間のトレーニングを修了された方には修了証をお渡しします。

◇ フォローアップ

時間数:1日(6時間)
DSCN1031.JPGプログラム内容:

  • 支援者トレーニングの振返り 
  • トレーニング前・直後・今の状態を振返る
  • グループワーク:個人および組織の変化(よい変化、課題)
  • ワーク(事例検討、ロールプレイ等)

◇ 参加費

10,000円(3日間)

◇ 修了生ネットワーク  

東京YWCAでは、修了生同士のネットワークを大切にしています。修了生のネットワークを充実させるために、以下の取組みを行っています。  

  • 修了生メーリングリスト  
  • 修了生交流会(年に1回のリアルな交流会)  
  • ネット交流会(ZOOMを使って各地域の修了生の取組みの紹介等)

◇ トレーナーチーム  

図5.jpgトレーニングとフォローアップは、東京YWCAのトレーナーチームが行います。トレーナーチームは、米国でのプログラム開発に携わった尾崎礼子さん(米国ソーシャルワーカー)から定期的にスーパービジョンを受けながら、それぞれの現場経験をもとに相互研鑽に励んでいます。
民間シェルタースタッフ、婦人相談員、LGBT相談員など、多様なバックグラウンドをもつトレーナーがいます。通常、2~3人のトレーナーがチームとなり、トレーニングを行います。

◇ これまでの参加者

婦人相談員、配偶者暴力相談支援センター相談員、男女共同参画センター相談員、民間支援団体スタッフ、シェルタースタッフ、施設職員、看護師、弁護士、司法修習生、臨床心理士、保育士、行政書士、学生など

◇ これまでの実施履歴

2019年6月(東京)
2018年1月(熊本)
2017年11月(静岡)
2017年9月(大阪)
2017年7月(秋田)
2016年11月(東京)
2015年7月(青森)
2015年2月(東京)
2014年7月(東京)

◆ 参加者の声

◇ 新人支援者の立場から

支援者トレーニングを受ける前と後で変わったこと・・・
それは、私の基盤が固まったことかなと思います。

図2.pngDV被害者支援についての基礎知識を得ることができたことがとても大きいですね。自分自身の基盤が固まったと実感しています。DVサバイバーから支援者の側になっていきなりエキスパート研修(※)を受けたので、砂の上にお城を立てたようなぐらぐらしていた感じでしたが、これで自信がつきました。  
それとやっぱり「仲間」。同じトレーニングを受けた仲間が全国に散らばっていることがとても心強いです。自分のもう一つの所属場所になりました。東京YWCAのネットワークや仲間に「自分は所属している」という感覚が持てることは大きな支えです。守秘義務があるのでケースの細かいところまで開示はできませんが、相談現場を持っている人、特に一人でやらなくてはいけない人こそトレーニングを受けて、相談できるネットワークと仲間をつくってほしいと思います。

《インタビューイー略歴》
DVサバイバーから支援する側に転身。自身の経験を活かしながら、様々な形でDV被害者支援に携わる。現在は民間支援団体の事務局と配偶者暴力相談支援センターの相談員として活動している。

(※)エキスパート研修とは、複雑で難しい個別ケースへの具体的な対応等を学ぶ研修のこと

◇ 民間支援団体の立場から  

支援者トレーニングを受けて、組織として、仲間として、 
同じ目的に向かう者同士の『共通言語』ができました。

図3.pngこのトレーニングをメンバーにも受けてもらったら、同じ方向を向いて支援をしていけるのではないかと思ったんです。私たちはカウンセリングもしており、DVの心理的影響など専門知識があるゆえに、分析してしまったり、私たちのほうがよく知っているという感覚を起こしがち。これに対して、このトレーニングでは、「サバイバー主体とは何か」を、知識+実際的なワークの中で、常に一貫して考えさせてくれるんです。実際に、「ほらほら、こういうことをトレーニングでやったじゃん」ということが、必ず1年に何回かあり、「支援者としてどう向き合うか?」ということを常に考えさせられます。そのうえで、バージョンアップされていく専門知識やアプローチ方法を取り入れないと、「いつ、私たちもサバイバーを傷つけることになるかわからない」という危機感を持っています。  
メンバーが同じトレーニングを受けることによって、私たち組織としては「こういうことを大事にしてやっているよね」という『共通言語』ができたかなと思います。一つずつ説明しなくても、一人ひとりがトレーニングの中で経験したことで、支援の原点に立ち戻りやすい。同じ言葉、同じ経験をしたことで、グループとしても、同じ相談をする仲間としても、とても助けになっていると思います。

《インタビューイー略歴》  NPO法人Safety First静岡。DV防止法制定以前から地域でDVサバイバー支援活動を行ってきた。県の男女共同参画センターの相談事業の委託業務をはじめ、デートDVの予防啓発講座を行っている。代表をはじめ、ほとんどのスタッフが支援者トレーニングを修了。

◇ ベテラン支援者の立場から

支援者トレーニングの学びを、日常的な心がけに 活かしています。

図4.pngDV防止法の制定後、第三者として「大変だったね」と同情の声をかけるだけではなく、よりサバイバーサイドに立った支援が必要ではないかという思いがあり、我々の支援してきた内容と合わせて今一度整理するきっかけになるかなと思って受講しました。サバイバーの回復をどうサポートできるのか、そのスキルを磨きたかったのもありますね。
具体的には、相談員とサバイバー役に分かれて行うグループワークが印象に残っています。「気をつけて慎重に取り組んではいるけれど、当事者の気持ちに寄り添えていなかったかもしれない」「もっとサバイバー一人ひとりの微妙な心情の変化に注意する必要があるのではないか」等と気づけたことは大きいです。  
また、リスクやプレッシャーから解放され、自由な雰囲気での討論や学びを促そうという運営側の一貫した姿勢に、我々受講生たち自身も大事にされているという実感を持つことができました。研修なのだけれど、とても豊かで心地いい。やはり、支援する我々自身が、豊かな心、やさしい眼差し、許容できる余裕がなければ、よい支援はできないですね。  
トレーニングでの学びを一過性のものにすることなく、日常的な心がけに活かしています。自身を振り返る、という習慣がとても重要で、「支援は日常の中にあり、回復もまた日常の中にある。」という言葉を作り、信条としています。

《インタビューイー略歴》  横田千代子様。婦人保護事業における婦人保護施設「いずみ寮」の施設長。長年DVサバイバーをはじめ 困難な状況にある女性たちの支援に携わる。 現場の実態を国に届けるロビー活動をリードし、支援の改善にも尽力している。