報告 第20回憲法カフェ「戦後70年の今を考え直す」~沖縄の米軍基地問題を通して~

非戦 非核 非暴力をともに考える 第20回 東京YWCA憲法カフェ
「戦後70年の今を考え直す~沖縄の米軍基地問題を通して~」

日 時:2015年9月10日(木) 18:00~20:30
場 所:東京YWCA会館
講 師:高橋哲哉さん 
<プロフィール>
1956年、福島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。哲学や「人間の安全保障」などを教える。
ベストセラーとなった『靖国問題』(ちくま新書)ほか著書多数。近著に『沖縄の米軍基地「県外移設」を考える』(集英社新書)。『犠牲のシステム 福島・沖縄』(集英社新書)、『いのちと責任』(共著、大月書店)、『3・11以後とキリスト教』(共著、ぷねうま舎)、『憲法を変えても、戦争にならない?』(共著、ちくま文庫)などがある。
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■参考図書『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』
■当日資料:文末に記載。
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【講演概要】
 「戦後七〇年」と言われるが、沖縄はいまだに「戦後ゼロ年」ではないかという声もあります。
 「国体護持」のための「捨て石」とした沖縄戦、「本土」*注1 の主権回復と引き換えに米国統治権下(事実上の米軍政下)に沖縄を投げ出したサンフランシスコ講和条約、県民を欺く密約を米国と結んでの沖縄返還、日米安保体制下での米軍基地の集中存置、そして今、「オール沖縄」の民意を無視して辺野古新基地建設が強行されています。
 翁長雄志沖縄県知事は、前知事の辺野古埋立承認に法的瑕疵があるとの第三者委員会の結論に基づき、辺野古埋め立て承認の取消をする手続きに入っています。その後の予想として、政府は行政措置を取り、法廷闘争になれば統治行為論という、高度な政治性を帯びた国家行為には司法権は及ばないとする考え方を裁判所がするかもしれません。
  
 「日米安保条約をこれからも維持していくことに賛成ですか。反対ですか」という『朝日新聞』の全国世論調査によると、1995年賛成が全国で64%が、2014年には賛成が80%前後に達しています。すなわち事実上「本土」の国民の圧倒的多数が日米安保条約を支持し、今後も維持しようと思っていることは明らかです。
 日米安保条約に反対する反戦平和運動は「沖縄にも本土にも基地はいらない」といい、日本から米軍基地をなくすため安保条約を廃止しますと言います。しかし、安保反対運動は1960年以降、成功していない。もう少しで安保を廃棄しますから待ってくださいとは言えない。安保解消がすぐにはできないとしたら沖縄から米軍基地を引き取って本土で勝負しなければならない。やるべきことは、日米安保条約が必要という8割の国民に向かって、自分たちで負担とリスクを負うべきと言うことです。基地を引き取れないときは安保条約は成り立たない。
 日本の安全保障のために米軍に頼り、その米軍の主たる駐留先を沖縄に求めるという構図を考えたときに真っ先に思い浮かぶのは、1947年9月に発せられた沖縄に関する「天皇メッセージ」です。その歴史的文書*注2 で「沖縄の米軍駐留を25年ないし50年以上継続するよう、天皇が希望している」というものです。ここで天皇はそれが米国にとって利益になるとともに日本を守ることにもなると明言しています。
 現在、「本土」の世論8割が日米安保条約を必要とする以上、「本土」に米軍基地を引き取るとは誘致でなく、引き取るべきだという責任です。引き取ったら事故、犯罪、性暴力の被害が起こるのではないか。基地のあるところに必ず被害があるのではないか。ところが沖縄は戦後70年ずうっと基地が置かれてきました。「本土」の側で基地を拒むことができるでしょうか。「本土」で性暴力が起こってしまう、誰が責任をとるのかという声もあります。では、これまで通り沖縄の人々をリスクにさらしつづけるのでしょうか? 「本土」が基地を引き取ることは責任であって犠牲ではない。すでに沖縄に積み重なってきた沖縄の犠牲に対する責任です。
 1960年代沖縄は、ベトナムから「悪魔の島」と呼ばれました。朝鮮戦争では日本が「悪魔の島」でした。湾岸戦争でも、9.11後のアフガニスタン攻撃もイラク戦争の攻撃も日本から行っている。これを認めてきたのは日本です。憲法9条のもと、一人も殺さなかった、9条は日本の宝というが、日本は米国の戦争に加担してきた。日米安保条約は平和友好条約にかえて、中国や朝鮮と東アジアで安全保障の秩序をつくる。東アジアのなかで平和にならなければ平和とはいえない。

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 高橋哲哉さんのお話は最新著作『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』(集英社新書)に沿って展開して、もともと「本土」に分散駐留していた海兵隊が沖縄に移駐していく経緯、1972年から73年、米国国防総省が沖縄の海兵隊基地を米本国の基地に統合し沖縄から撤退する案を検討していたとき、日本政府が海兵隊の沖縄駐留維持を求めたこと、さらに1995年、米兵少女暴行事件後に、米国側が沖縄からの「撤退」「大幅削減」の選択肢を検討していたとき、日本政府がそれを拒否し、米国普天間飛行場の県内移設へと収束していったことに言及されました。
 そして新基地建設でなく「本土」の既存の施設への県外移設をまず追求すべきだとして、大阪、福岡での市民による米軍基地引き取り運動を紹介されました。
 ぜひ『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』をお読みいただいて、さらに話し合いを深めていきたいと希望します。 (文責:東京YWCA平和と正義委員会)

*注1 「本土」という言葉は適切ではないが、日本国内の沖縄以外の地域を総称する他の適切な日本語がないため、やむを得ず括弧を付けて「本土」として使用している。
*注2 歴史的文書:「琉球諸島の将来に関する日本の天皇の見解」を主題とする在東京・合衆国対日政治顧問から一九四七年九月二二日付通信第一二九三号への同封文書 連合国最高司令官総司令部外交部 一九四七年九月二〇日 マッカーサー元帥のための覚え書。
■当日資料
1.「大阪で基地引き取りシンポ」 琉球新報 2015年7月16日
2.「『基地を本土へ』大阪で論議」 沖縄タイムス2015年7月22日
3.「沖縄は誰のためにある」 わき道をゆく 魚住昭の誌上デモ連載第139回 『週刊現代』
2015年9月6日
4.親川志奈子「『基地を引き取る』という日本の声」 リレーコラム沖縄(シマ)という窓 
『世界』2015年10月
5.「県外移設」という問い① 松本亜季「まず沖縄差別解消を-日米安保、身近に考える」
琉球新報 2015年8月20日
6.「県外移設」という問い② 金城馨「『基地集中』で分断 引き取りで対等な関係に」
琉球新報2015年8月21日
7.「県外移設」という問い③ 高良沙哉「自らの責任を直視 植民地終わらせる好機」
琉球新報2015年8月25日
8.「県外移設」という問い④ ましこ ひでのり「『千倍濃縮』の基地集中 問われる『安全とは何か』」琉球新報 2015年8月26日
以上


アンケート集計(回収率:42%)より(抜粋)  参加者73名 アンケート協力31名
・高橋先生のお話を聞くまで、「本土で基地を引き受ける」という発想がなかった。辺野古の方たちのご苦労はわかっているつもりだったので、ショックを受けると共に自分の考えの足りなさ(沖縄に対して結局は他人事だった)に気づいた。恥ずかしく思った。沖縄の人たちに甘えていた。先生の著書も読みたいと思った。ありがとうございました。
・沖縄問題について、自分なりの考え方を確立したくてきました。「沖縄の犠牲と本土の無責任」という構図がはっきり見えるようになりました。安保も軍備もなしに、平和を維持することが憲法を厳格に実践するということだと思います。よりましなファンタジーとして。
・真正面から基地問題、差別問題、安保条約問題、歴史を高橋先生に論じて頂き、もっと本気で基地被害に苦しませられ続ける沖縄の人たちを抑圧してきている本土の体制、意識について考えようと思うことができました。これだけは勘弁してほしいと思う基地を押しつけてきた事はきちんと考えてみれば耐えられるものではないと思う。しかし基地を真横に住んだことがないので本当にはわかっていないと思います。とにかくなにか行動せねばと思うきっかけがもてて今日はよい催しでした。それから質問にとても丁寧に答えられたのは感服しました。
・沖縄の基地問題について温かい理解をもって対応されていることに敬意を表したい。
・沖縄の基地、安保条約について、今後貴重な考え、指針を頂きました。どうもありがとうございました。
・沖縄の基地がなくなればよいと思っていたが、(その他の地方の基地については考えたことがなかった)段階的にでも基地をなくすためには、県外移設が有効と思った。
・初めてでしたが、戦後70年改めて国民として沖縄、憲法について考える時が来た様に思います。本日参加してよかったと思います。