ひびきあう心

2021年9月
副園長 瀬口哲夫

 話を聞こうとしない。言っても動こうとしない。急に怒り出す。何故?どうして?と親は悩んでしまいますが、そのなかには、行動に特徴を持ち、生きやすい環境や対応を専門家と共に考えていく方が良い子どもたちもいます。時に親は正しいと思っても、子どもにとっては不適切な対応になっている場合もあります。イギリスの作家デイヴィッド・ミッチェルさんも、'道で突然跳びはねる''嬉しそうに笑っているかと思えば、次の瞬間に涙を流して悲しむ''急に怒り出して壁に頭を打ち付ける'といった息子の行動に戸惑い、我が子を抱きしめることしか出来ない自分に悩んでいました。そんな時、東田直樹さんのエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』を読んで、息子が自分に語りかけているように感じたそうです。そこには「僕たちが一番辛いのは、自分のせいで悲しんでいる人がいること。子どもが一番望んでいるのは、自分を受け止めてくれる場所と親の笑顔です。」と書かれていました。人が打ちのめされそうになった時に思い出すのは、優しく微笑む親の顔や小さい頃に温かさを感じた人の顔だったりします。自分の感覚や感性、考え方や生き方を認めてくれた人々が存在すること、存在したことで、人はどんな時でも自分を認め、誇りを持って生き続けることが出来るのだと思います。
「僕が散歩を好きなのは、緑が好きだからです。人にどれだけ否定されても、緑はぎゅっと僕たちの心を抱きしめてくれます。目で見る緑は、草や木のいのちなのです」と書いています。気になる一点から目を離せないほどに、美しさや心地よさを独自の感覚でとらえ楽しんでいる人もいるのです。一方で、「みんなが(僕に)呆れているのも、悲しんでいるのも分かっています。分かっているのに止められない僕たちですが、どうか懲りないでください。思い通りにならない体、伝えられない気持ちを抱え、苦しくて苦しくてパニックになることもあります」とも書いています。
 東田直樹さんは、'聞いて認識する脳'と'言葉にして伝える脳'の繋がりが上手くいかず、人と会話することは難しいのですが、自分の行動を分析して表現する力は素晴らしいものがあります。人は弱いところを持つと、それを補うために他の部分が発達し、その人独特の世界を作り上げると言われています。社会の中にはまだまだ、周囲に理解されず、どこにも自分の居場所がないと感じている人々がいますが、本人からの発信を受け止められる人々が出てきたことで、人間についての研究が進み、支援のための研究も進んでいます。
 人間社会は一人ひとり違って当たり前、それぞれが特徴をもって精一杯生きています。ただ、親が困った時には、困った姿がその子のすべてに見えてしまう時もあります。保育に携わる私たちは、日々子どもを見つめ、その子が持つ素晴らしさを見つけていきたいと考えています。
保護者の皆様と一緒に、子どもにとってのより良い育ち方、保護者にとってのより良い育て方を考えていきましょう。