2025年度3月園だより

一人ひとりが紡ぐ物語

園長   清田 悦子

 三寒四温の日々を重ねる庭の木々の枝先に、柔らかな芽吹きの色が混じり始めました。子どもたちを静かに見守ってきたおじいさんの枝垂れ桜が、今年も花開く準備を整えています。

こちらでは、お隣のお庭に飛んでくる小鳥のさえずりを聞いた子どもたちが、まきばの庭にも小鳥のお家を作ろうと、先生と一緒に巣箱作りに取り組んでいます。あちらには、はじけるような笑顔で  お友だちと手を繋ぎ、庭を駆けぬけていく子どもがいます。年度途中の転園で、大人の背中に隠れて涙を浮かべていたあの頃の姿はどこにもありません。「いつの間にか、こんなに大きくなった」そこには一人ひとりが紡いできたたくさんの物語があります。

 まもなく、19人の子どもたちが「まきば」を巣立っていきます。思えばこのたからグループの子どもたちが生まれてきた頃の世界は、コロナ禍という未曾有の出来事の渦中にありました。「人と人とが温もりを感じられる距離でことばを交わす」「おいしいね、と会話をしながら一緒の食卓を囲む」「悲しんでいる友だちの傍らでともに涙を流す」そんな、何気ない「いつも」の中にこそ、この世界への安心や希望が育まれるのだと信じて、様々な制限や困難も乗り越えながら一緒に歩んできた、 19人のかけがえのない子どもたちです。

 子どもたちは今このときをどう過ごしたいのか自分で選びとり、涙も笑顔もともにしながら暮らす時間の中で、その子だけの「たからもの」を見つけてきました。まきばで育んだ「心の礎」は、これから先、たとえ見えない壁にぶつかるような時にも、自分を信じて立ち上がる力になるはずです。世界に一つだけしかないその「たから」を輝かせながら、新たな一歩を踏み出していく姿を、私たちは眩しい思いで見送りたいと思います。  

 そして春が来れば、新しいお部屋での生活を始める子どもたちがいます。ひとつ大きくなることへの期待に胸を膨らませる一方で、環境の変化に戸惑いを感じることもあるでしょう。子どもたちが その小さな身体と心のすべてで表すどんな思いもそのまま受け止めて、一緒に大切な「いつも」を  積み重ねていきたいと思っています。

 この一年も、子どもたちのために、手をたずさえて歩んで下さり、また、私たちが力足らずの時にも、温かい信頼のエールを送って頂いたこと、本当にありがとうございました。子どもたちの新しい春に、心からの祝福を込めて。