園だより

2017年5月
園長 大沢千佳子

忘れられない風景

桜若葉、陽光をうけて緑透き通るもみじの葉、
子ども達をその木陰にいだく大きなエノキの葉が五月のやわらかな風にそよぐ。
空を見上げると、気持ちがゆっくりゆっくりと開かれていくよう。
園庭が一年の中で一番輝く、美しい季節の訪れです。

4月のある日。すでに日は落ちて、園庭には延長保育の部屋からもれる明かりとおぼろ月。
小学生になって初めて再会した卒園生の仲良し二人が乗るエノキのぶらんこ。
並んで、顔を見合わせては楽しそうに笑いながら。
二人の姿が夕やみの中に消えては戻りまた消えて。
見守るお母さんの目が潤んでいる。
小学校生活の始まり。新しい場所。新しい先生。新しい友達。
頑張らなければいけないことばかり。学校へ行く足どりが重たくなったという。
このまま行けなくなってしまったらと悩み、仕事も忙しく、
他の家族にばかりに心を向けてしまいがちだった自分を責めている。
大丈夫。私たちの目に映る『まきば』にいた時のあの笑顔があるから。
ゆっくり焦らずいきましょう。信じて待ってあげましょうよ。
こういう時、お母さんは地に根を張った大きな木のように傍にいてあげるだけでいい。
「またくるね!」「またあおうね!」と元気な声で帰っていく後ろ姿に、
 そっとかけた言葉は「その笑顔を忘れないでね。いつでも遊びに来ていいのよ。
『まきば』は変わらず、ずっとここにあるから。」

誰にでも忘れられない風景がある。確かにそこに自分がいたと心から感じられる風景。
『まきば』で過ごした子ども達はどんな風景を心の中に残していくのでしょうか。
『まきば』が、「なくてはならない場所」から「思い出の場所」になっていく時の流れの中にあっても消えることのない、その子だけの風景。時に懐かしく時に力をもらえるような風景が、一人ひとりに残されていきますように。

「園長先生!」 「お帰りなさ~い。」
今日もランドセルを背負い黄色い帽子を目深にかぶった卒園生達が元気な笑顔で登場。
ランドセルを事務所において、「きょうね~...」とまずは学校での出来事を報告。
まるで自分の家に帰ってきたように。小さな子ども達の願いにも耳を傾けてくれて、
遊び相手をして帰っていく。学校にすっかり慣れるまでのもう少しの間、そのキラキラした瞳を見せてもらえるとうれしいなぁ。


なくてはならないもの。
何でもないもの。なにげないもの。
ささやかなもの。なくしたくないもの。
人知れぬもの。いまはないもの。
さりげないもの。ありふれたもの。  

長田 弘「わたしたちにとって大切なもの」抜粋