ひびきあう心

2018年2月
副園長 瀬口哲夫

ノンちゃんは生まれた時から小さな物音や人の動きに敏感に反応し、すぐに不安になって泣き叫ぶ子でした。すぐに泣き、なかなか泣き止まない我が子にお母さんは休む暇がなく、疲れ、悩み、不安を感じていました。周囲からもアドバイスをもらいましたが、疲れた体を休め、心を溶かすことはできませんでした。自分の力のなさを責め、時に爆発しそうな自分を抑え続けました。そんなノンちゃんが2歳を迎えたある日、お母さんはバスに乗ってみないかと誘いました。行き交う車のスピードや音に怯えながらもやっとバス停まで歩いたのですが、いざバスが来ると車体の大きさに圧倒されて後ずさりしてしまいます。その時、お母さんが「ノンちゃん、大丈夫。お母さんがいるから安心...」と静かな声で言ったのです。優しく抱かれて乗り込んだバスの中はとっても素晴らしい場所でした。見たこともない椅子が並び、いろいろな絵が描いてある広告が垂れ下がり、ブザーを押すとバスが止まるのです。「お立ちの方は吊革におつかまり下さい」という声がスピーカーから聞こえてきます。なんて素敵な世界でしょう。ノンちゃんは不安がるだけでなく、小さな変化や違いに気づき、その面白さを楽しめる子でもあったのです。お母さんは感動して、「すごいね!ノンちゃん!ノンちゃん、やったね!」と目を丸くして褒めました。それ以来、「今日もバスに乗りに行こう」と自分から誘うようになりました。きっかけはどこに転がっているか分からないものです。バスに乗ることだけを目的にした'冒険の旅'は数か月間続きました。 こうした経験を経て、ノンちゃんは自分を励ます「魔法の言葉」を手に入れました。滑り台に初めて上る時や周囲の大きい子に声をかける時、その不安を乗り越える言葉、自分を励ます言葉。困ったら呟く言葉。お母さんが傍に居なくても、ノンちゃんはちょっと困ると呟きます。「お母さんがいるから大丈夫。お母さんがいるから安心、安心」と...。3歳を迎えたノンちゃんは、真夜中にお父さんが急病で倒れた時に、不安がるお母さんの手を握りしめながら、「お母さん、大丈夫だよ。ノンちゃんがいるからね。」と静かに励ます子になり、園で泣いている子がいれば「大丈夫。一緒に居てあげるからね。ノンちゃんがいれば安心、安心」と言える4歳児に育ったのです。あなたとお子さんにとっての「魔法の言葉」は何ですか?